―夫が鬱になった。
私は、いつもの生活を送っていたのだった。
その「いつもの生活」というのは、職場に行って仕事をして、家に帰ってきて家事をするということ。
それが私の「いつもの生活」だった。
私の仕事は中学校の先生だった。
一昔前は学校の先生というと、うつ病になってしまうとかでものすごく大変だったらしいけれど、最近では楽な仕事に変わっていた。
仕事があるので私だけの力では家事をやりきれない。だから夫にも大分手伝ってもらっていた。
一方夫はというと、会社へ行って仕事をして、それから私から頼まれた家事もがんばっていた。家事を頑張ってもらっていた。
そして夫はうつ病になってしまった。
もしかしたら、私が家事をサボり過ぎていたのかもしれなかった。
それで夫に負担がかかっていたのかもしれない。
かれは真面目だから、一生懸命両立しようとしてくれていたのだと思う。
私が日々を繰り返すことにあまりにも真面目になっていたのかもしれない。
私は彼の兆候に気付けなかった。
仕事は楽とはいえど、それなりには忙しかったから。
でも、今思えば、本当に重症だったのは夫より私の方だった。
私は心を亡くしていた。
私は忙しかった。
ある日私が夕ご飯を作っているときに、夫が私の所に来て、私に抱きついてきた。
料理しにくいし、危なかったけれど、夫はそうでもしないと不安なのだろう。
夫は家にいるさなか
私はいつもどおりに勤務先の中学校へと車を走らせた。
病院へ一度行ってこれからのカウンセリングの事や薬のことについて聞いてきた。
それで今日は私は仕事へ着た。
そして、いつもどおりに着いた。
いつもどおりの所に駐車して、荷物を持って車を出て…バタンとドアを閉める。
そこまでは本当にいつもどおりだった。
私は職員室の方を向き、それで……私は、固まった。
私は―固まってしまった……?
動けない。
どうにもこうにも体が動かない。
私は困った。
だって、私はこの後職員室へ行かないといけないのだから。
でも私は固まったままだ。
よく見ると、動いていないのは私だけではない。
風もなく、なぜか時間が流れているという感覚が無い。
いつまで経っても…ずっと…永遠に…?
私はなぜか、この状態が一生続くように思えた。
きっとずっとそのままなのだ。
私はこのまま。
何も変わらない。
ここへは誰一人来ないし、時間もまったくもって進まない。
もう何年経ったのかな?そんな事が浮かんだ。
いやそんなに何年も経っているはずはない。
でもそんな風に思えてしまう程なぜか「永遠」に思えた。
太陽はずっと同じ位置にある。
しばらくすると(時間は進んでいないようだが)、この動かない世界に1つだけ動きだした物があることに気がついた。
風だ。
風で草が「ささっ、すさっ」と揺さぶられている。
少しだけ時間が流れているという感覚があって、安心した。
不意に私の視界の中で変な動きをするものが現れた。
物陰から、何かが出てきた。
私は、それが何なのか目を見開いて注視した。
もっとも、今の私は動けないので、目を本当に見開けているのかは疑問だったけれど、
気持ちとしては脳から目の瞼の筋肉に対して「開きなさい」と命令しておいた。
それは…ワカメだった。
可笑(おか)しな動きをする変な物体、其れはわかめだった。
私は朝、あの駐車場でワカメに引っ張られて此方(こちら)の夢の国、ワカメの国に来た。
グイと引っ張られた。
胸倉(むなぐら)をグイっと引っ張られた。
私の頭の中はぐるぐると回った。
強引に引っ張られて回る私は抵抗等(など)出来無かった。
ましてや先程迄 (まで)、駐車場で長い間突(つ)っ立って居たのだ。
私は引っ張られながら、此(こ)の儘(まま)引っ張られ続けて、何処(どこ)か遠くへ行って仕舞う気がした。
そして、此(こ)んなに速いスピードで、真っ直ぐ進んで仕舞っては、帰り道が分から無く成るのでは無いか?
と思って凄く不安に思った。
あんな訳の分からない世界に1人で行けば、
誰だって、不安になるのが当然だと思う。
でも私の場合はむしろ逆だった。
私はワカメの国にいるときの方が安心できた。
私って、自分が思っていた以上に人間界での生活を嫌だと思っていたらしかった。
ワカメの国に行ってその事に気がついた。
事務所の皆がワイワイやっていた所を見ていたら、なんだかとても安心することができた。
心からそう思えた。
私は、2人のワカメの事を、ファミリーコンピュータのゲーム「パックン」に出て来る敵キャラクターの様に感じた。肌が触れてしまえばゲームオーバー。ん?でも、此(こ)の場合はゲームオーバーに成るとどう成る?
今から思えばの話だが、私は、ワカメの国でゲームオーバーに成る事を恐れて居た。と言う事は、私は、人間界に戻る事を恐れて居た。まだ遊んで居たいと言うよりも、心の底から、恐れて居た。私は、自分で思って居たよりも、人間界での生活を苦しんで居たのだった。
【初仕事】
迷い子案内所の仕事場は24畳程度の広さだ。
部屋の周りに机が、中央を向く形で並んでいる。
とても、変な机の配置だ。
壁にはぎっしりと、長い時間を感じさせる茶色の棚がずらっと並んでいる。
棚が壁でもある。
そして、真ん中には、何も無い。
朝、仕事場はざわざわしている。
壁代わりの棚から紙を取り出したり、話し合っていたり、忙しそうだ。
私は、フランジェリムさんの机の付近の壁に引っ付いていた。
そうしていないと、邪魔になってしまう。
私が、あたりを忙しそうにしているワカメさん達を見ていると、
部屋の中央にあるワカメさんがやってきた。
そのワカメさんは紙を床に落とした。
故意に落としたように見えた。
その落ちた紙は、消えた。
すると、その紙が消えたあたりの床がなにやら青白く光って見えてきた。
何なのかと目を細めてみていると、
「じゃあ、行くわね、用意して」
とフランジェリムさんが声をかけて来た。
「あ、ごめん、用意って言ってもなんも持ってないもんね。じゃあ行きましょう」
「はい」
はて、どこに行くのかな。
フランジェリムさんが部屋の中心へ向かっていく。
私は、部屋の中心へ目をやった。
部屋の中心には霧がかかっていた。
さっきの青い光はどういう事になったのかなと思った。
私は、その靄の中に入っていった。
私にはそれが夢なのか、どうかよくわからなかったけれど、フランジェリムさんがそう言っていた。
ていうか、フランジェリムさんはずっと紙を見ている。
そんなに難しいのだろうか。
すごく難しそうな顔をしている。
私は、フランジェリムさんのどの部分をみて、彼女が難しそうな顔をしているのか、自分でもはっきりとは分からなかったけれど、
なんとなく分かった。
人間だと眉間に皺がよっているとか、目を細めているとかだろうけど、何しろワカメだからいまいちわからない。
今思い返すと、よく分からない。
女の子はリボンの上を走っていた。
ずいぶんと大きなリボンだ。
リボンはうねっている。
その上を女の子が走っていた。
女の子はテーブルに置かれた水がとても嫌だった。
嫌に思っていた。
お母さんが置きっぱなしにするお水が嫌いだった。
嫌いなのだ。
なんでそんな所に置いておくの?
私がテーブルに当たってこぼれでもしたらどうするつもり?
私が届かない場所に置いてある水、ちょっとお母さんそれを飲んでから洗濯物ほしてよ。
私の中にそれらの感情が流れ込んできた。
不安。
思いっきり台所でも遊びたいのに、何かと色々な所を走りたいのに、そんな所に飲みかけを置いておかないで、お母さん。
でもお母さんは別のリボンの上に乗っている。
私が走っているリボンとは別のリボンの上を走っている。
だから、声が届かない。
ちょっとお母さん!
リボンは大きくうねって、洗濯物を干しているお母さんに声が届かない。
ああ、もうちょっと。
ロケットちょうだい。ロケットを鉛筆のでもいいわよ。
「お母さん、変なの、これ」
「ああ、それは、ロケット鉛筆っていうの」
「変だね」
「ううん、そうだね」
お母さん、ロケット鉛筆って、面白いね!
ちょっと、お母さん。
女の子はしかたなく鉛筆を絵に描くことにしたみたいだ。
ロケット鉛筆。お母さんの所までいけるロケット。
ロケット鉛筆を、色ペンで描いている女の子。
フランジェリムさんは一生懸命に女の子が描いている絵を水滴で出来ている虫眼鏡を使って見ている。
それで、持っている資料に目を通して…。
それで、また虫眼鏡で眺めて。
女の子が描いているロケット鉛筆を一生懸命に見つめる、フランジェリムさん。
「あのう、フランジェリムさん」
「なあに?」
「あのう、それはロケット鉛筆なんですが…」
「へ?ロケット?」
フランジェリムさんはハっとして、資料に目を通す。
「あ、え、と、これの事?」
資料には「ロけっとえんぴつ」と描いてあって、かなり下手なロケット鉛筆の絵があった。
「あ、はい、そうです」
「あら、そうなの。」
フランジェリムさんは指パッチンをした。
すると、うねる2本のリボンと女の事、お母さん、洗濯物の世界にすなが降ってきた。
砂は一箇所にそれとなく集まっていって、そこに輪を作った。
穴の向こうはまた別の世界のようだ。
フランジェリムさんと手を繋いで、その穴へと向かった。
でも、私だけいけなかった。
「あれ?あんた来れないの?」
「え、あ、はいそのようで」
「あんた、組み換えをするのよ」
「は?組み換え?」
「あああんだから、…そっか、んだからさ」
フランジェリムさんは困ったような顔をして、
「だから、ちょっとあんた感情と一回離れて」
「え?は?あの感情と」
「感情と離れて」
私は口だけ「カンジョウトハナレテ」と動かして、どうしようもなくゆれるリボンに流されていた。
「ああ、んもう。このままだともっと流されちゃう。っていうか、私かなり分かりやすく説明できたつもりなんだけど、感情から離れてって言っただけじゃだめなの?まじ分かりやすいかと思ったのに」
私は、台所の水が美しく日の光に反射しているのを見て、不覚にもちょっといいなとか思ってしまった。
★
綺麗。
白とピンクと水色とか、色々色色色色いろ色々色いろいろ色いろ色居ろ居ろここにいよう。
★
「ああ、ちょっと、あんたが捕まってどうすんの?」
私はフランジェリムさんに額を触られていた。
「あれ、私は、あの…」
「ちょっと、あんた、仕事してんのに、仕事される側になってどうすんの」
「へ?」
気づいたら、私とフランジェリムさんは誰の部屋だか知らないけれど、子供部屋みたいな所に二人して座っていた。
2人はなぜか糸で絡まっている。
赤と黄色と白とオレンジの糸で、それで、フランジェリムさんは私の額に手を当てていた。
私は訳が分からず、間の抜けたそんな声を出して、アヒル座りをしていた。
私、今何をしているんだっけ?
「仕事!」
「仕事かあ」
「んもう!帰るわよ!」
「え、仕事があるのにいいんですか」
「いいの、もう根本的に解決しておいたから!」
私は、フランジェリムさんに手を引かれて、靄のなかから出てきた。
それで、やっと、今仕事中だったということをしっかりと思い出せた。
意識がはっきりして、夢の中で私が、訳のわからない行動をしていた事を恥ずかしく思えてきた。
「すみませんでした!」
「いいのいいの」
フランジェリムさんは疲れた様子だった。
私は、あの女の子の夢の中で女の子を案内するどころか、私自身が女の事一緒に迷ってしまっていた。
この靄の中から出てきて、初めてそのことが分かった。
靄の中、つまり、あの女のこの夢の中にいるときは、そのことがわからなくなっていた。
リボンの上から、出ていけなくて、その後はよく覚えていない。
でも、私が仕事の邪魔をして、迷惑をかけてしまったという事ははっきりわかった。
そんな風に考えながら、私は体育座りをしながら、靄を眺めていた。
まだ、靄の中から帰って来ている先輩は誰もいない。
この部屋には今、私1人きりだ。1人霧だ。確かに私と、霧があるだけだ。ダジャレ…。
ガチャ!
フランジェリムさんが帰ってきた。
ドアから入ってきたのはフランジェリムさんと、所長だった。
「ごめんなさいね、私さっき強く当たっちゃったでしょ?」
「え、あの、」
「私さ、あんたの事、よく分からなくってさ」
「あの、私、どうなっていたんですか」
「あんた、あのリボンの波に流されて、光の国まで言ってたわよ」
「光の国?」
「ああ、えっと、凄く遠くに行ってたわよ、遠くに」
「そうなんですか。私、机の上のコップを見ていたんです、台所で。窓から光が差し込んでいて。そのコップに反射してて、それが綺麗だなあって思ってて」
「……それ女の子の記憶じゃないの?あんた、そんなの見れるの」
フランジェリムさんが、驚いたように言った。
「人間の夢の中に人間が入って行くんだから、見れたって不思議ないんじゃないの」
所長が言った。
続けて所長が
「そのとき動けなくなってたっしょ」
「あ、はい。動けませんでした動けないっていうか、見とれてて、ずっとそこに居たっていうか」
「そう、それなんだよ、その見とれてて動けないっていうのが、つまり、夢の国から帰って来られなくなっているってゆう事なんだ」
私はそれで、思い出したことがあった。
小さい頃、小学生の時、たぶん3,4年生くらいの時の事。
下校中、
道路に交通標示があった。
私は、前方に知っている友達が2人いるのに気がついたので、そこまで走っていこうとした。
でも、そのとき、なぜか「その道路交通標示の柱にタッチしないといけない」という考えが浮かんできた。
なぜかは分からない。
とにもかくにも、私はそうするべきだと思った。
そうしないといけないと思えた。
だから、私はその柱をタッチしてから、友達の方へ行った。
でも、友達の所まで着く前に、私はまた「柱にタッチしないといけない」という気がした。
私は、そのまま友達の方へ行きたかったのだけれど、どうしても気になるので、戻った。
タッチして、また友達の所へ走って行くのだが、また気になって戻る…。
何度も繰り返した。
結局その友達2人は私の帰り道とは別の方向に曲がってしまった。
何度も柱に戻った時のむずむずした感じを私はこの年になっても覚えていた。
私は、「夢の国に帰れない」の意味が少し分かった気がした。
「そういうことなんですね」
「うむ、そういうことだ」
「迷うのは、ほとんど子どもなのよ。まあ、大人も夢は見るだろうし妄想もするだろうけど、最終的にはほとんどの人が自分でちゃんと帰れるの。
でも、子どもの場合は夢の世界に1度入ってしまうと、戻れなくなる事が多いのよね」
任務の途中でフランジェリムさんが話してくれた。
こんな話もしてくれた。
「人は夢の国へ行ったままでしばらく帰らないと、もとの世界には戻れなくなってしまう。
やがて、その人は初めから居なかった、という事になってしまうの。」
私はその話を聞いて、ギョっとした。
それと同時に、昔、こんな感じの「怖さ」を味わった事があったような気がした。
ブラックホールに入って、その後永遠に帰って来れないとか。
永遠に帰って来れない。
もう戻って来れない。
それは…とても怖い事だ。
そういう怖さは1度考えてしまうとなかなか頭から離れなかった。
大人になってからはそんな事を考える機会なんて微塵もなかったけど、小さい頃は何度か考えていた気がする。
夢の世界に行ってしまって、戻れなくなって、人間界では誰も心配してくれることも無くって、初めからいなかった事になる…。
でもフランジェリムは、よくある事よと、言った。
別に何もこわか無いわよって。
私はどう考えても怖いと思った。
「そうなんですか…」と私は納得できない感じで返事をした。
私が納得していないことをフランジェリムさんは読み取ったらしく、さらに話した。
「でもさあ、あんたはあっちにいる時より今の方が楽しいんじゃないの?
私はあんたが向こうに居たときの事は知らないけど今のあんたを見てるとそう思うよ」
確かにそうだ。
向こうにいるときより今の方が楽しい。
「まあ、そんなもんよ。そこにいた方が楽しいんなら、本人も満足だろうし、他の人だって手出ししようとは思わないんじゃないの?
いいじゃない、楽しければ」
そんなもんだろうか。
私はやっぱり府に落ちない感じがしていたままだった。
まあ、とにかく、そういう子どもが人間の世界と夢の世界の間に挟まれて動けなくなってしまったのを助けるために、この案内所があるという事か。
私は、自分がこれからそういう子どもの救世主になれるんだと思ってうれしく思った。
この職場の本当の名前は「迷い人案内所」というらしいが、ワカメの国では普通「迷い子案内所」と呼んでいるらしい。
所長が教えてくれた。
【所長の話】
これまた、所長は面白かった。
人間界から来て、この職場に入ったばかりの新米の私によく愚痴をしゃべってきた。
ふつう愚痴は面白くないものだけれど、グチっている内容が本当にどうしようもなくって、おかしくなってしまった。
実際に顔に出して笑うと良くないので心の中で笑うだけだったけど。
私のパートナーは ドグナ・ミラコ・ソランシェリムというワカメの国の住人だ。
かなり名前が変。
変だけど、変だから、すぐ覚えられた。
まあ、名前からしても分かるが、彼女は女の人だ。
正式に言うとワカメの国では男女は無いらしいが、なんとなく面白半分で、男女があるらしい。
面白半分て…。
遊びみたいなものだそうだ。
まあ、ワカメの国ではそんな感じで理解できないことがたくさんあった。
私が経験したことの中で人間の概念にちゃんと置き換えられる事はほんとにわずかしか無かった。
もしも置き換えるのであれば…という感じしか説明は出来ない。
フランシェリムは(私はこのソランシェリムという部分が音の感じが良かったので、彼女の事をそう呼んでいた。が彼女はなんでその長いところをいちいち呼ぶのかと言っていた)
私の仕事のパートナーとして、仕事の間は私とずっと一緒だった。
普通は助手なんていないのだけれど、私が人間で、ワカメ人より能力が圧倒的に低いのでこういう形を取らせてもらった。
所長がそうしてくれた。
初めは、何となく助手をやっていたけれど、後になって周りの同僚たちはだれも助手と仕事をしている様子がなかったので、所長が臨機応変に「助手」という立場を作ってくれたのだと
わかった。
私がいたほうが仕事の能率が下がるけれど、ソランシェリムさんは嫌な感じは出さないで居てくれた。
私にもそれは分かった。
フランジェリム以外のワカメの国の人には誰も助手なん付いていなかった。
私が1人では仕事が出来ないから、わざわざ「助手」という職をつくってくれたようだ。
その事について私は負い目を感じてはいたのだが、ソランジェリムもその他のワカメの国の人も誰もそのことが嫌なんて思っていないようだった。
それも当たり前みたいな感じでいた。
報告書の翻訳の事もそうだ。
フランジェリムが全部の報告書を書けばいいのに、私にも半分やらせた。
それでソランジェリムがそれを見ながら訳すのだ。
それでは完全に余計な手間になっている。
余分に時間もかかる。
にもかかわらず彼女はそれを当たり前のようにやってくれた。
本当に私が書いたものを訳してくれていた。
憶測で彼女が適当に内容を変えたりはしていないようだった。
私にここはこうしたほうが良いと、ちゃんとアドヴァイスしてくれたから。
それにしてもドラえもんのホンヤクコンニャクって、どんだけー。
まあ人のイメージの中に潜りこんでるんだからその中にホンヤクコンニャクがあってもそれはありえることなんだろうけど、
ホンヤクコンニャクはやっぱり貴重みたいで、特別に集めているのだそうだ。
また「迷い子案内所」ではない、特別な所で集めているらしい。
所長が私のためにそこから品を要請しているらしかった。
本当に私のために色々なことをしてくれた。
やっぱり人間とワカメ人じゃあ違うから…。
でも私が活躍できることもあった。
ワカメ人はどうすればいいか分からなくて、資料を眺め回している場面でも、人間なら誰でも「こうすればいいだろ」ということが良くあった。
人間にとっては当たり前の事でもワカメの国の人にとっては意味不明は多くあるみたいだった。
たとえばロケット鉛筆というものをさがした時があった。
なぜロケット鉛筆を探す必要があったのか私にもよく分からなかったのだが(ソランジェリムはわかっていたみたいだった。私にこうだから必要なのよと説明してくれたけれど、よく分からなかった)
とにかくロケット鉛筆が必要だった。
でもフランジェリムは目の前にロケット鉛筆があるというのに、困っていたので、私がこれだよと言ったのだ。
でも彼女はは?と言ったきりまた手元の資料を眺めはじめてしまった。
私は勝手にそのロケット鉛筆を持って夢を見ている主である女の子に渡してあげた。
そしたら女の子は夢から覚められたのだ。
フランジェリムは目を丸くしていた。
後で聞いてみたが、彼女はロケットの形をした鉛筆だと思っていたらしい。
確かにロケット鉛筆はロケットフォームはあまりしていないし、デザインもロケットッぽくはない。
中の芯が飛び出してくる!という点でロケットっぽいのだ。
そういう変なところで抜けている。
私は抜けていると感じるが、ワカメの国に住んでいるのだから分からなくても普通であろうが。
職場の皆とはうまくやっていけた。
フランジェリムも私も含めて、お昼には皆でランチに行ったりもした。
私は、そのときは本当のワカメの国の領域に入れてドキドキした。
レンガ造りでレトロな感じだった。
【夢の国に来た日】
初めてこっちに来た日の事、
おかしな動きをする変な物体、それはワカメだった。
私は朝、あの駐車場でワカメに引っ張られてこちらに来た。
グイと引っ張られた。
胸倉をグイっと引っ張られてそのまま
私の頭の中はグルグルと回った。
強引に引っ張られて回る私は抵抗などできなかった。
ましてやさっきまで駐車場で長い間突っ立っていたんだし。
私は引っ張られながら、このまま引っ張られ続けて、どこか遠くへいってしまう気がした。
そして、こんなに早いスピードで、まっすぐ行ってしまっては、帰り道が分からなくなるのではと思ってすごく不安に思った。
どこか遠くへ私は連れて行かれているんだと分かった。
そして直感的に、こんなに早いスピードでまっすぐに進んで行ってしまうのでは、簡単には帰って来られないと思った。
結果的にはそのとおりだった。
私はもう自分がグルグル回ってはいない事に気がついた。
そして自分の目に何かが映っている事にも気がついた。
私は目に気を送って、視覚を働かせ、目に映っているのが何なのかを確認しようとした。
映ったのは茶色だった。
茶色の木目の壁。
私は古目だと思われる木目の壁を見ている。
そして、私は、アヒル座りをしていた。
手を前についている。
「こんにちは」
誰かが私に挨拶をした。
私は何も考えずに、つぶやいた。
「こんにちは」
「これは、驚いた、本当に普通の人間だね」
「所長が連れて来いって、」
「うん。まあでも、何?ワカメの国にふつーの人間が来るのはかなり珍しいんじゃないかね」
「それはやっぱりそうでしょう。珍しい珍しい。」
私は、耳元でそんな声が流れているのを何となく聞いていた。
私はハっとした。
私が今聞いているのは何?
私が居るのは何処なの?
私は当たりを素早く見回した。
何処かの部屋だった。
壁は全て茶色の木製だった。
机が置いてあった。
机も木製だった。
誰も居ない。
ここは!
そう思って私は立ち上がった。
すると、目の前に…ワカメが2人…いた。
私はドキっとした。
こんな近くにワカメが2人、逃げないと…。
怖い。
でも、こんなに近くにいる。逃げ切れないだろう。
どうしよう……ワカメが2人?って?
そんなことを考えていたら、視界が急にはっきりした。
いままではぼやけていたみたいだ。
そこにははっきりと、ワカメが2人、居た。
ワカメが動いている?
ワカメが喋っている?
私は一体何処に居るの?
夢の世界なの?
―正解だ。此処(ここ)は夢の世界だ。
私は、其の日夢の世界と言うか、夢の国「若芽の国」に来てしまった。
普通は、マンガとか、アニメとかで、主人公がこういう変な所に1人っきりで来ると、
不安だなとか、これからどうなるんだろうとか、感じるのだと思う。
でも私の場合は寧ろ(むしろ)逆だった。
人間の世界に居るときよりも、ワカメの国にいる方が安心する。
よっぽど向こうが嫌いだったって事かな。
こっちに来てから、その事に気がついた。
向こうでの日々はあまりに単調過ぎたんだ、きっと。
ここにいる人たちのワイワイやっている所を見ていると、なんだか安心できた。
心からそう思った。
楽しかった。
体が崩れちゃったり、透明になっちゃったりしたけれど。
私が折角書いた報告書をホンヤクこんにゃくを使って訳してもらった。
「ここで迷うのは、大体は子どもなのよ。大人も夢は見るだろうし妄想もするだろうけど、最終的には自分でちゃんと帰れるの。でも子どもは夢の世界から人間界に戻れなくなることが多々
あるのよね」
任務の途中でフランジェリムさんが話してくれた。
その後でこんな事を話してくれた。
「人は夢の国へ行ったままでしばらく帰らないと、もとの人間界には戻れなくなってしまうの。
その人は初めから居なかった、という事になってしまうの。」
「それってとても怖いですね」
そのまま戻れなくなってしまうなんて、それに人間界では誰も心配してくれることも無くて、初めからいなかった事になるだなんて…。
でもフランジェリムは、よくあることよと言った。
別にこわか無いわよって。
でも、だからこそこの案内所があるという事か。
人間界に戻れるように案内してあげるんだ。
「でもそんな事言うけどさあ、あんた人間界にいる時より元気にやってるじゃない」
「私が人間界にいるときの事なんて知らないでしょ」って言ったら、
「知らないけどなんとなく分かるよ、今のあんたを見てると」って言われた。
でも確かにその通りだった。
この職場の本当の名前は「迷い人案内所」というらしいが、ワカメの国では誰もが「迷い子案内所」と呼んでいるらしい。
所長が教えてくれた。
これまた、所長は面白かった。
人間界から来て、この職場に入ったばかりの新米の私によく愚痴をしゃべってきた。
ふつう愚痴は面白くないものだけれど、グチっている内容が本当にどうしようもなくって、おかしくなってしまった。
実際に顔に出して笑うと良くないので心の中で笑うだけだったけど。
私のパートナーは ドグナ・ミラコ・フランシェリムというワカメの国の住人だ。
かなり名前が変。
変だけど、変だから、すぐ覚えられた。
まあ、名前からしても分かるが、彼女は女の人だ。
正式に言うとワカメの国では男女は無いらしいが、なんとなく面白半分で、男女があるらしい。
面白半分て…。
遊びみたいなものだそうだ。
まあ、ワカメの国ではそんな感じで理解できないことがたくさんあった。
私が経験したことの中で人間の概念にちゃんと置き換えられる事はほんとにわずかしか無かった。
もしも置き換えるのであれば…という感じしか説明は出来ない。
ソランシェリムは(私はこのソランシェリムという部分が音の感じが良かったので、彼女の事をそう呼んでいた。が彼女はなんでその長いところをいちいち呼ぶのかと言っていた)
私の仕事のパートナーとして、仕事の間は私とずっと一緒だった。
普通は助手なんていないのだけれど、私が人間で、ワカメ人より能力が圧倒的に低いのでこういう形を取らせてもらった。
所長がそうしてくれた。
初めは、何となく助手をやっていたけれど、後になって周りの同僚たちはだれも助手と仕事をしている様子がなかったので、所長が臨機応変に「助手」という立場を作ってくれたのだと
わかった。
私がいたほうが仕事の能率が下がるけれど、ソランシェリムさんは嫌な感じは出さないで居てくれた。
私にもそれは分かった。
ソランジェリム以外のワカメの国の人には誰も助手なん付いていなかった。
私が1人では仕事が出来ないから、わざわざ「助手」という職をつくってくれたようだ。
その事について私は負い目を感じてはいたのだが、ソランジェリムもその他のワカメの国の人も誰もそのことが嫌なんて思っていないようだった。
それも当たり前みたいな感じでいた。
報告書の翻訳の事もそうだ。
ソランジェリムが全部の報告書を書けばいいのに、私にも半分やらせた。
それでソランジェリムがそれを見ながら訳すのだ。
それでは完全に余計な手間になっている。
余分に時間もかかる。
にもかかわらず彼女はそれを当たり前のようにやってくれた。
本当に私が書いたものを訳してくれていた。
憶測で彼女が適当に内容を変えたりはしていないようだった。
私にここはこうしたほうが良いと、ちゃんとアドヴァイスしてくれたから。
それにしてもドラえもんのホンヤクコンニャクって、どんだけー。
まあ人のイメージの中に潜りこんでるんだからその中にホンヤクコンニャクがあってもそれはありえることなんだろうけど、
ホンヤクコンニャクはやっぱり貴重みたいで、特別に集めているのだそうだ。
また「迷い子案内所」ではない、特別な所で集めているらしい。
所長が私のためにそこから品を要請しているらしかった。
本当に私のために色々なことをしてくれた。
やっぱり人間とワカメ人じゃあ違うから…。
でも私が活躍できることもあった。
ワカメ人はどうすればいいか分からなくて、資料を眺め回している場面でも、人間なら誰でも「こうすればいいだろ」ということが良くあった。
人間にとっては当たり前の事でもワカメの国の人にとっては意味不明は多くあるみたいだった。
たとえばロケット鉛筆というものをさがした時があった。
なぜロケット鉛筆を探す必要があったのか私にもよく分からなかったのだが(ソランジェリムはわかっていたみたいだった。私にこうだから必要なのよと説明してくれたけれど、よく分からなかった)
とにかくロケット鉛筆が必要だった。
でもフランジェリムは目の前にロケット鉛筆があるというのに、困っていたので、私がこれだよと言ったのだ。
でも彼女はは?と言ったきりまた手元の資料を眺めはじめてしまった。
私は勝手にそのロケット鉛筆を持って夢を見ている主である女の子に渡してあげた。
そしたら女の子は夢から覚められたのだ。
フランジェリムは目を丸くしていた。
後で聞いてみたが、彼女はロケットの形をした鉛筆だと思っていたらしい。
確かにロケット鉛筆はロケットフォームはあまりしていないし、デザインもロケットッぽくはない。
中の芯が飛び出してくる!という点でロケットっぽいのだ。
そういう変なところで抜けている。
私は抜けていると感じるが、ワカメの国に住んでいるのだから分からなくても普通であろうが。
職場の皆とはうまくやっていけた。
お昼にはフランジェリムや、他の同僚と一緒にランチに行ったりもした。
一日の仕事が終わると、私は、あてがわれたアパートに帰った。
フランジェリムさんが一緒に帰ってくれた。
私は家に帰った。
私は眠ると、毎日夢を見た。
私が現実世界で働いている夢だ。
私は、いつものように働いているのだ。
一日に起きたことが、総まとめな感じで、寝ている間に展開される。
私は朝起きると、ああ、ここはワカメの国なのか…と毎日思った。
そして、良かったと感じた。
ねえ、あの頃のあたしと、今のあたし、どう違うかな。
私、やっぱりあの頃つまらなかった気がする。
そのときは淡々と日々をこなしていた。
でもそれは、淡々過ぎたのかもしれない。
仕事をして、家事をして、それで…。
あとは?
楽しいこともした…よ。
多分。
私って、そんなにつまらない女だったけ?
フランジェリムさんは気さくに声をかけてくれる。
仕事をのろのろとした出来ない私を待ってくれる。
でも、人間世界ではそんなことをやっていては、駄目だ。
会社勤めだったら、クビ。
会社はつぶれてしまう。
周りの人から駄目な人扱いされる。
だが、しかし、仕事、を一生懸命やればそれだけでいいのだろうか。
家事をこなせばいいのであろうか。
私は、もしや淡白過ぎたのではないか。
【黄泉の国篇】
フランジェリムさんは本当に多くの事を教えてくれた。
普通に教師をしていては到底知り得なかった事をだ。
「ヨミの国ってどうしてヨミの国って言うか知ってる?」
フランジェリムさんは突然そんな事を私に尋ねて来た。
「え?知らないです。というよりヨミノクニという物自体あまり聞いたことが無いです。何なのですか」
「黄泉の国はね、夜の国であり闇の国でもある。古代人間は、太陽が沈むと、その太陽は夜の国である、黄泉の国
で過ごして、朝再び太陽が蘇るのだとそういう風に思っていたの。そういう人達が居たの。ここからは人間界でも知られていない事なのだけれど、
夕日が沈むとき、西の空は黄色っぽくなるでしょ?ヨミの国の「ヨミ」は感じで黄色い泉と書くの」
「黄に泉ですか」
「そう、おういずみと書いてヨミ。イズミのミとヨミのミが重なるでしょその人達はね、夕日が黄色に見えたの。
夕日って一日の終わりにあるでしょ?一日が終わってその後黄色い泉が西の空に溢れんばかりにまるで泉の様に太陽から出て来るの。
その黄色の後に夜になるから、太陽は何処へ行ったかって考えたときに、ああ、黄色い泉の国に行ったんだ!て気付く訳よ。
それで東から太陽が又昇ってきて、ああ、黄色い泉の国から帰ってきてくれたんだって思うの。だから黄泉の国」
「成る程。昔の人は、太陽が一日の終わりに、黄色い泉の中に入っていってしまうように見えたのね昔の人は電気が無いから昼間の方が大切。
だから太陽の光は大切であった。太陽が失くなっててしまう事はとても困ることで名残惜しいから、その後何処へ行ったかが気になるし、大問題だったのね」
私は推論を申した。
「よく分かったわね。その通りよ。さすが元教え師」
「オシエシではなくて、教師です」
「ああ、人間界ではそういう風に言うんだったわね」
またまた、今度は何事だろうか。随分いつもと雰囲気が違うでは無いか。いつもの通りに迷いご相談所に出勤したら、同僚のワカメさん達がザワ付いている。
何だろうと耳を澄まして聞いてみる。
「ダグダ王が来るってさ」
「え、私ダグダ王嫌い。っていうか、デ・ダナーン神族自体が嫌い。」
「私は好き。だってカッコいいし、頭いいし」
「まあ確かに魔法は上手いらしいからその点に関しては尊敬せざるを得ないけど、でも妙に気取っているって言うか
その感じが嫌い。というか苦手」
「気品があるとも言えるけどね。まあ、言葉なんてどうとでも言い換えられるからね」
「まあ、取り方に因るね」
…成る程…分からない。私には意味がほとんど分からなかった。
何者かがワカメの国に来るという事は分かった。
それから、その者は好き派と嫌い派に分かれるという事も分かった。
フランジェリムさんが何食わぬ顔で出勤してきた。
「おはよー」
「あのフランジェリムさん、何かがあるんですか、誰かワカメの国に来るって聞いたんですけど」
「あーそれか。ダグダ王の事でしょ」
「はい。そうです。そのダグ…ダ?の王様が来るって、小耳に挟んだんですけど」
「ダグダ王。あやつはなかなかの曲者でな。見た目良し雰囲気良し、おまけに魔法まで上手いと着たもんだ。完璧っちゅう訳よ」
フランジェリムさんは、歌舞伎役者風に言葉をキメた。
「わーそれはそれは、完璧人間ですね」
「人間ではないけど、神様だからね。神族、神様の族って書いて親族ね。アイルランド出身よ。アイルランドと言ったら随分日本から遠いけれど、偶々近くまで来たついでに
ワカメの国に寄ったのかね。」
そんな完璧はどこにでも居るもんだ。
私が人間界で教師をしていた時にもそういう生徒は大体学年に0.5人くらいは居たもんだ。
もう、人間界が昔の事がまるで小説で読んだ事のある心象風景の如きイメージとして脳内に収納されている。
あの日々は「リアル」だったのだろうか。今の方が「リアル」であるように思える。
まあ2学年に1人、完璧な人が居るのだ。
完璧だからと言って鼻が高くて嫌な感じと言う訳でもなく、教師受けも良いというまさに完全体!
そこまで来るともはや、人間として見る事が出来なくなる。
化け物的完璧人間。
そういう人が居る。
この場合、ダグダ王というのは神様らしいので、化け物的というか、ある意味化け物そのものである。
完璧で尚且つ鼻が高いちょっとむかつく人も居る。
まあ、色々な人が居るか学校生活が楽しくなるってもんだ。
脳内言葉遣いがフランジェリムさんの影響で歌舞伎っぽくなってしまっている…。
「でもね、」
フランジェリムさんが荷物を置いて、いつも通り仕事の準備をする為に棚の確認をし始めたときに
「表があれば、裏も有る。彼は貪欲で残酷よ」
そのとき何処からとも無く、ハープの音色が聞こえてきた………様な気がする。
これは空耳か?なんだか不思議な聞こえ方がする。
空耳か本当の音なのか、分からないくらい微かな音だった。
なぜこんなに騒がしい事務室でその音が聞こえているのだろうか?
微妙に頭の中で混乱している。
一体何処から来るのか、甚だ不明であった。
他のワカメさん達も同じ様に聞こえているらしい。
そのハープの音色に耳を澄まし始めた様で、事務室内が静かになった。
このハープの音色を聞いてしまったら、どうにかなってしまうとそう思わせる、
魅力的な音色であった。
ここは妖精の国の中である。
どんな不思議なことがあっても可笑しくない。
この音色を聞いてしまうと、記憶が無くなるとかなんとか不思議な事が起きるのではないか?
そう思わせる音色だった。
が、フランジェリムさんに何か特別な効果があるのかと聞いたら、そういうのは特に無いらしい。
うむ、素直にいい琴だ、あ、ううん。琴でなくて、ハープだ。
ハープの事を琴と脳内で思ってしまった事に寸分の恥ずかしさを覚えた。
一瞬変換して
「何か凄い上手なハープ」
私はフランジェリムさんに話しかけた。
「まあそうね。これがダグダ王のハープよ」
「これがダグダ王が演奏しているハープ」
「そうよ。」
「はーこれは…なるほどこれは完璧ですね。こんな上手いハープを弾けるだけで完璧ですよ」
「完璧だけど、やっぱり好き派と嫌い派に分かれるところよ」
「ねえ会いに行って見ませんか」
「えーダグダ王に?」
フランジェリムさん如何にも嫌だと言うような声と表情をした。
「フランジェリムさんは、ダグダ王嫌い派なんですか?」
「私は嫌い」
「そうですか」
私は、ワカメの国に来てからと言うもの少し元気で積極的になった気がする。
その時私が、フランジェリムさん無しで1人でダグダ王に会いに行こうだなんて思い立ったのはきっと、そのせいだったのだろう。
その日仕事が終わって脳がとても疲れていた。
そんあ状態にも関わらず私はダグダ王に会いに行った。
夢の中を行ったり来たりする仕事なので、体は疲れないのだが頭が疲れるのだ。
糖が欠かせない。
商店が集まっている道で甘いお菓子を買って帰るのが常だ。
迷い子案内所から帰るときは頭の使い過ぎで頭が熱い。
ダグダ王が好きで、よく入る店があると、同僚に聞いたのだ。
その同僚はダグダファンだそうで色々知っていた。
聞いた所によると、そこのお店の鶏がらスープは、なかなか美味しいらしい。
ドンぴしゃりだった。
ワカメの国ではそれなりに有名な食べ物屋さんから出てくる所に出会ったのだ。
その周りに人集り(ひとだかり)ならぬワカメ集りが出来ていたので、
そこにダグダ王が居るのだと遠くからでもすぐ分かった。
ワカメ集りでなかなかダグダ王の姿が見えなかったが、ワカメの妖精達はは私よりも少しばかり背が低い事が幸いして
なんとか一瞬だがチラッとダグダ王の姿を見る事が出来た。
ダグダ王はイケメンなのかなと勝手に思っていたが、違った。
何だか腕が筋肉質で頑健な感じだった。その目はダグダ王見物も出来たし、新しいお店も知れたし今日はいい事が2つもあった。
その日ルンルン気分で眠った。
私はワカメの国に来て人間界で教師をしていたときより元気になっていた。
私が、一度目にワカメの国へ行ったときの話。
ワカメの国では色々在(あ)った。
この話は色の中でも、銀の話だ。
水の中に在る「ワカメの国」の「迷い子案内所」で働いて居(い)るとき。
私は仕事で、例の青い霧の中から人間の頭の中に入っていた。
私は銀色の何かを見た。
「先輩?是(これ)なんだと思います?」
私はフランジェリム先輩に訊いて見(み)た。
「ん?何?」
先輩は暢気(のんき)な雰囲気で応(こた)えた。
振り向いて、私が指差す其の銀色の物体を見るや否(いな)や、フランジェリム先輩は
「離れてっ」
と怒鳴った。
私は余りの其の声の大きさに驚いて肩をビクっとさせただけだった。
こういう緊急事態に大声を行き成り(いきなり)口にされても、言われた方としては、吃驚(びっくり)するだけである。
私は取敢えず(とりあえず)、其の銀色の物体から離れた。
「先輩、恐いですよ。突然大声を出して」
「あれが何か知ってる?」
「え、知りません。銀色のプルプルした物」
この会話の流れだと、フランジェリムさんが私に其の銀色の物体の正体を教えてくれるのかと、私はてっきり其う思った。
然し(しかし)、違った。
「私も、知らないわ。」
ズコー。
知らないのかいっ!
今度は私が怒鳴りたく成(な)った。
怒鳴りたくなったと言うより、突っ込みたく成ったよ!
「兎に角(とにかく)あれは危険物よ!」
「そ、其うですか」
私は肩透かし感を感じながら先輩に相槌を打った。
「詳しくは、ディクドトリに聞いてね。」
「え?」
「私の弟。人間界のあれこれに詳しいから。私は一般的なワカメの民だから人間界の事はよく解(わか)らないの。
でも、私の弟の「ディクドトリ」通称「ディクッチャー」はワカメの国の民のくせに、頭が良いのよ。人間界のあれこれに詳しいから。人間であるアンタと話が合うと思うわ。」
「はい。でも、私フランジェリムさん以外の方と上手く話せるか自信無いです。」
「其(そ)う?じゃあ、私から聞いてあげるわ。仕事が終わったらね。」
夢の世界から抜け出せ無く成った子を夢の世界から現実の世界へ還してあげるという私達の仕事を終えてから、迷い子案内所の前でフランジェリムさんが携帯電話を取り出した。
…夢の世界にも携帯電話が有るんだ。
夢が壊れる。
「あ、もしもし?ディクッチャー?あのさ、ちょっと聞きたい事が有るんだけど。
あれ、あのさ、何十年前に在った事件。銀の何とかって事件あるでしょ?…あそれそれ、銀の涙事件(ぎんのなみだじけん)。有難う。じゃ此れから帰るから。」
電話が終わった。
フランジェリムさんはコチラを向いて。
「聞いてた?「銀の涙事件」。人間界の人間の感情が銀の涙として表現されて、其れを魚が飲み込んでしまって。
其の魚を人間が食べて、人間が余りの感情の高さに、動け無く成ったり、震えが止まら無く成ったりした事件。あんたの年だと知ら無いか。」
え、っとその話って、何か聞いた事が有る様な気がする…。
「え、其の話って、「水俣病」の事ですか?」
「は?何其れ。知らない。人間界でどの様に呼称されているかは知ら無い。何?「みかんびょう」って呼ばれてるの?」
「違います。蜜柑病では無く、「みなまたびょう」です。」
「ふうん。」
「水俣病は有機水銀を原因とする神経系の慢性中毒症です。」
「そうなんだ。解らないけれど。其の事件が、恐らく私達ワカメの国の民の間で言われている「銀の涙事件」ね。
銀と言う色はね、感情の行き止まりの色。
月が銀色に光る事が頭の中に浮かんだら、其れは感情の行き止まりを表して居(い)るわ。
NeoMoon。
銀月。
溢れんばかりの感情の高まりの象徴で有る銀の涙を呑んで終ったら頭が可笑しく成るのも当然。
余りに強い感情は、他人の感情を可笑しくしてしまうわ。」
「つまり、中枢神経が可笑しく成ると言う事ね。」
私はフランジェリムさんの話を現実に即した表現で言い直して呟いた。
「え?何か言った?」
「いえ、何も。で、銀の涙事件はどの様な事件だったのですか?」
私は現実世界でのメチル水銀がどの様にワカメの国の民に影響したかが気に成った。
私だって一応、いえ、一応では無く、人間界に居た時は、中学校教師だったのだ。
理科担当だ。
フランジェリムさんは口が重そうに話し始めた。
「あの事件はね。本当に不思議な事件だったわ。
銀の涙はワカメの国の民には直接的には悪影響を与えない。
妖精は感情の高まりに拠って生まれる。
感情が詰まった、銀の涙は妖精を無き物にするとい言うよりも、寧ろ妖精を肯定する存在。
其の事件はちょうど、此(こ)の「迷い子案内所」で起きた事件。
迷い子案内をしていた当時の和布の民が、あ、其の頃は、ワカメの国は、「若布の国」では無くって、「和布の国」だったわね。
其の和布の国の民がいつも通りに仕事をして居たの。
そうしたら、其の対象の人間の頭の中が銀色に成って、其の対象の人の世界が全部銀色に染まった。
何も出来無く成って、其の和布(わかめ)は引き換えした。
そして、其の対象の頭の中では、仕事が出来無く成って仕舞った。
あぁ其の頃から、若布の民は人間の頭の中の便利な道具とか、便利な概念を拝借させて貰っていたわ。
今、は「ドラえもん」の秘密道具の記憶が様々な人の頭の中に存在しているから、其れを貰ったりしているわ。
大人に成る子供の頭から貰うのよ。
だって大人に成る人は「ドラえもん」の秘密道具の情報なんて記憶から消されていても問題ないでしょ?
人間の頭の中の物を貰っていたりしたのだけれど、其の銀色の世界では、情報を貰って拝借する事が出来なく成って仕舞ったの。
其の「銀色現象」は当時ちょくちょく起きていたわ。
そして其の銀色の原因を突き止めたわ。
世界が銀色に成る瞬間を目撃した和布が出て来たの。
其の和布の証言に拠ると、世界が銀色に成る直前に、銀色の素敵が振っているという事が分かったの。
人それぞれ見ている夢が違う。
全く、雰囲気が違う夢を見ている人でも、世界が銀色に成る前に銀色の水滴が振っている事が分かったわ。
後々(のちにち)、ワカメの国の大王の「千里眼」で、解った事は、其の銀色の水滴は、人間が発生させた物だという事。
当時の和布の国の王の感覚から物を言わせた場合、其の銀色の水滴は「涙」だと言う話だったの。」
なるほど。
つまり、この話から私が得る冪(べき)教訓は、
どんなに好き曲でも、その曲を鳴らしている楽器を食べては成ら無い、
どんなに好きな人でも、其の人を食べては行け無いと言う事…。
私は、久し振りに真剣に考えた。
【現実に戻る編】
ある日私は、
部長の部屋に用事があって、お邪魔した。
整然と綺麗に部屋は整理されていた。
でも、何だか入って左奥のコーナーが見えない。
本棚が天井近くまでくらいあって、左奥が隠されている。
いやに気になる。
デスクは真ん前にこちらを向く形で普通に置かれている。
私は、目をいくつかしばたかせて、考えを何度も持ち直した。
~
あまり、勝手な行動を人様の部屋ですべきではない。
いや人ではないワカメだ。
でも、気になる。
ちょっとくらいいいよ、きっと。
でも、普通に考えて駄目だろう。
でも、ここはあくまでワカメの国以前いた人の世界とは異なるのだ。
~
私は、この一連の考えを自分がしている事に驚いた。
私は、以前こんな人間ではなかった。
もっと堅い人間だったはず。
他人の、人様の部屋を勝手に詮索するなんて、ありえないとか考えるはずの性格だったのに…。
私、どうしちゃったの?
悪い事に手を染め様としてる…
ダタン
突然音がした。
私はビクッとした。
下げていた頭をあげて、前を見ると、部長がいた。
そして、ちょっとの間私と目を合わせて例の私の視界の左側へと消えた。
さっきから気になっている、その棚の後ろへ隠れてしまった。
私は?と思った、隠れて、それで?
部長の手が棚の後ろから現れて、手招きした。
私は、おなかの中心をひっぱられるように感じ、そして、のそりのそりと、足を踏み出した。
デスクの右側から回り込んで棚の後ろである所の左奥の角が、視界に入った!
そこには、部長と見覚えの有る光景が有った。
部長の後ろ側の壁であるはずの所は、穴が開いていて、そうちょうど畳で言うと一畳分の壁がくりぬかれている様に見える。
今私がいる位置からすると、そのくりぬかれた壁の左側に本棚があるのだ。
壁の向こう側は、外のようだ。
ただの裏口であるようだ。
「あの部長…」
私は、部長は何も言わず外にでて、階段を降りていってしまった。
「え、」
私は着いていこうと、よく裏口に有り勝ちな、銀色の金属製の板で出来た踊り場へ出た。
そこに広がっていたのは、何だか見慣れた光景だった。
なんなんだろうこの見慣れた光景は、広い土地。
何をする場所?
あ、学校だ。
私がいたのは、私が以前勤めていた学校だった。
部長が階段の下にいて、こちらを見ている。
「早く降りてきなさい」
私はよく分からないまま降りた。
「あのう」
「君はこれで釈放だ。また以前務めていたこの高校へ就職という事だ」
「はい?」
私は今まで逮捕されていたのか?
そのつっこみはいれずに、部長に聞く。
「どういうことですか?」
「では…」と言い、部長は、いつの間にか持っていたのかストップウォッチらしきもののボタンを
ポチっと押した。
すると、風が私の背中を押した。
風は私の体の芯に何か魂を入れて通り過ぎた。
周りの草が揺れ、時間というものが流れ出したのを感じる。
「ハイ、それじゃあ」と言って
部長は私の肩をポンと叩き、階段をタンタンタンタンと軽快にあがっていってしまった。
それで、ドアを…バタン。
そこにあるのは本来横に開くはずのドアだが、洋風のドアがバタンと音をたてて閉まった。
それで、その部分が元の横開きのドアに戻った。
私は、呆然と立ち尽くした。
一体なんなのか…
…
「もうお昼だし、お昼ご飯を食べよう」と思い、職員室へ向かった。
一瞬の内に私は以前の生活に戻った。
生活の変わり目って結構単純に行われる事が多い。
其れこそ、紙一枚とかで。
高校入試何て本当に其う言うものだ。
私は以前より少し柔らかい性格になった。
以前の様に仕事をいつも完璧に熟す(こなす)とか考えないで居られる様になった。
ワカメの国での、優しい人情(若布だから「ワカメ情」だけど)に触れる生活は私を本質的に変えた。
夫と緩やかなゆったりとした時間を過ごせる様に成った。
どうしても休む然(べき)時は、休める様になった。
例えば、余りにも疲れているとか夫が今日は仕事に行か無いで欲しいと言って来た時とか。
以前なら大丈夫!と仕事に行ったり、だらし無い!とか思って夫を振り払ったり。
夫は其れに応じて段々と調子が整って来た。
格言う(かくいう)私も調子が良く成って来た。
良く成ると言うより整って来た。
【再びワカメの国へ】
………
此れで私の物語は終わる筈だ。
しかし、
私は、また、ワカメの国に呼び出されてしまったらしい。
私は夫の病状が良い方向へ向いている事に些か希望を持ち始めていた。
此れなら又遣って行ける!
其う思居ながら私は自家用車を駐車場に置き、車から降りた。
其の時、何か匂いがした。
匂い。
何か嫌な事を思い出させる匂い。
何だろう。
其れを考えようと頭の中でシナプスからシナプスに情報が渡った其の瞬間、
時が止まった。
え、此れって…。
例の如く又体が動か無い。
あの時フランジェリムさんが現れた其の場所の草むら辺りにウネウネと空間が乱れた。
そして又、フランジェリムさんが現れた。
ああ、何て事、2回目。
いや、しかし、アレはフランジェリムさんか?
随分と表情が険しいが。
何か、「迷いご案内所」の引継ぎで問題があったのだろうか。
フランジェリムさんが此方に向かって来る。
「こんちくわ」
「こんちくわ」
こんちくわ?此れ又変な挨拶だ事。
「ごめんに、又呼び出す様な事になっちゃって」
「どうしたんですか?仕事の引継ぎで問題ですか?」
と言っても私が引き継ぐ様な仕事何て存在しないと思うけれど…。
いや、私が何か引き継げるほどの仕事をしたかというと、そんな事はなかった。
だから、そんな問題など起こりっこない。
思えば、フランジェリムさんに迷惑をかけてばかりだった。
「ううんと、引継ぎではないのだけれども、ちょっとこさ頼みたい事があるんだ」
「はい?何ですか」
内心私は嫌だった。
私は是から現実世界で頑張っていくのだ、希望も見えて来た所なのに。
しかし、お世話に成ったフランジェリムさんだ、そんなきっぱりぷっつり関係を終了何て出来っこ無い。
「此れ、此の紙を持ってお城に行って欲しいの」
私は何やら紙を渡された。
びしょ濡れだ。しかし、破れそうも無い。
魔法の紙だ。
海の中である、ワカメの国では此の魔法の紙は可也貴重な品だった。
私は、嬉しかった。
何故ならお城に行けるから。
私も女の子だ。
お城に其れなりの憧れを持っている。
私がワカメの国で仕事をして居る時も行く機会が無かったから行けなかった。
「分かりました」
私は一瞬にして、気持ちが裏返った。
行く気満々に成った。
「是から若布の国に向かうけれど、用意は良い?私はあんたと一緒に行けないけれど兎に角お城に行って来て女王様がどうしてもあんたに話したい事がある
んだって。ほら、あんた人間でしょ。ワカメの国では珍しいから其れを生かした仕事があるんだって、勿論短期のアルバイトだから。私は迷い子案内で凄く忙しいから」
「え、女王様からの仕事?どういう事ですか?」
私は女王様と聞いて少したじろいだ。
「兎に角行けば分かるから。じゃ」
「ちょまっ」
グッ
私は引き込まれた。
再び夢の国で有り妖精の国でもある、ワカメの国に。
あああ、全く、来てしまったからには仕方無い。
お城に行くか。
内心来てしまった事で後に引け無く成ったので、
この体が少し浮く感覚、ワカメの国にいた時の感覚だ。
陸地と違って一応水の中だから、少し体が軽くなったような感じがするのだ。
それから、肌が水に触れている感覚が少しだけある。
でも、おぼれない。呼吸は普通にできるのだ。
なぜだかよく分からないが、
辺りが暗い。
もう夜なのだろうか。
私は其の時の事を思い出した。
以下回想。
仕事に失敗する度にフランジェリムさんは、あんた、其んなに迷惑かけてすみませんとか言うんじゃないわよ。
あんたの国では、こう言う状況の時に発する言葉は「迷惑」という言葉しか存在しないのかしら。
もっと他に言い方があるんじゃないの?
私は決して怒られるような言葉はチョイスしなかったはずだが、なぜが言い方が気に障ったらしく怒られてしまった。
そんな事も有った。
私は、ワカメの国の電車に乗って、お城へ向かった。
お城が、役所でもあり、女王の住んでいる所でもあるのだ。
私は、テクテクと駅を降り城へ向かった。
城は高い所に建っていて、迷い後案内所からも見えた。
この町は城下町らしい。
この城下町がワカメの国の都市なのだそうだ。
私は、坂道を進んだ。
やっとこさ、城に着いた。
城へ付くと、門番のワカメがいた。
そのワカメが「入場許可証を」と言ってきた。
私は、フランジェリムさんにもらった入場許可証を手渡した。
係員は目を閉じ瞑想するように、紙を額にくっつけた。それから、額を変な紙の山に当てた。
それから、手にペンを持ち…突然手が素早く動いた。
書かれた文字は…読めない。でも、肯定か、否定かで言ったら、なんとなく肯定的な文字ではあった。
門番のワカメは目を開けて、
「ハイ、いいですよ」
と紙を私に渡した。
紙がさっきと違うものになっていた。
いつの間に紙に書いてある文字を修正液で消して、新しく地図を描いたのだろう。
そんな事をしているようには見えなかったけれど…。
とにかくその地図に書いてある、赤い・の所へ行けばいいらしい。
私は、でっかい門を通り過ぎて行った。
もう夜なので、あまり人がいなかった。
私は、廊下を曲がったり、階段を上ったりしながら、・の所へ向かった。
途中、宿直のワカメとあったり、残業で今から帰るワカメとすれ違ったりして、
こんばんはと挨拶を交わした。
私は、もう少しで・の所まで辿り着きそうな所までやってきた。
階段の最後の一段を上りきって、歩き始める。
長い廊下をテクテク。
前から誰かがやってきた。
少し、レースのついたドレスのような服を着たワカメが歩いてくる。
私は、もしやこの方が女王様なのではないかとそわそわしながら、歩いた。
何か話しかけてくるかな?ドキドキ。
「こんばんは」
わっ話しかけてきた!
「こんばんは」意外と落ち着いた声を出す私。
「今日は綺麗な夜空ですね」
「あ、そうですね」
その瞬間何かが起きた。
私にはそれが何なのか全くもってわからなかった。
でも、それまでの月夜が窓から入ってくる落ち着いた夜というその場の雰囲気がガラっと一変したのは分かった。
女王様が首を下げて下を向いている。
え、どうしたの?
私の体はザワっとした。
それから、床、壁が突然フニャフニャと動き出した。
そして、その熱い空気が上へ昇っていくようなフニャフニャとした所から、
何者かが出てきた。
それも1人ではない。私の後ろ、女王様の後ろ、私達を取り囲むようにして現れた。
へ?何?
私の心臓は今右手で左胸を触ったら、物凄く分かるだろうに、とてつもなく速くそして、嫌な感じに鼓動している。
そんな風に嫌な心臓の動きを体で感じ取っている間に、ズイズイとその何者かが姿現している。
全部で、6体。私は、どうすればよいかわからず、恐怖でその場に立っているしかなかった。
軽い、金縛りにかかっていた。
姿を現したのは、?…ワカメ?ではない。
似ているけれど、違うワカメより色黒だ。
何か黒いマントを被っている。
女王様が急に奇声を発し始めた。
「あギャーああああアアアアーぐぅうううーーーふんんんんん」
その6体の何者かに、私は取り押さえられた。
女王様は分けの分からない言葉を喋ったり、変な息を漏らしたり、変な声をあげたり、
一体、一体何なの?
私は、その6人にかくまわれるような形になった。
女王様は手を頭をかかえて、何かぶつぶつと唱え、突然首をガクッと落とした。
そして、突然女王様から光が発せられ始めた。
その一部始終を私はよく正体が分からない色黒のワカメに囲まれながら、かくまわれながら、
視た。
そして女王は…姿を消した。
【別れの日】
「私、若芽さん達と一緒に迷い子、あ、ううん。迷い人案内所で働いて、感じた事が有るんです。
皆さん、結構感情で、仕事の効率さを低くして仕舞ったりし無いですよね。
人間界では有り得ません。
私と公は別別なのです。
一緒くたにする事は良く無い事だとします。
でも、仕事をする上で邪魔な人間の私を無理に仕事の中に入れてくれて。
私、嬉しかったです。
仕事に感情を持ち込ま無い冪(べき)だと、以前の私は思って居(い)ました。
でも、其れは、必ずしもそうでは無いと、考えが変わりました。
私の夫は実は、鬱病に成って仕舞(しま)ったのです。
私は、あの日、若布の国に連れて来られた日、夫に家に居て欲しいと言われました。
でも、仕事をサボる訳には行か無いと思って、いつもの通りに仕事場で有る、中学校へ行きました。
其(そ)れは、私の過(あやま)ちでした。
私は自分自身の「夫の為に学校を休みたい」と言う気持ちを優先させる冪(べき)だったのです。
私は、自分自身で感じた「家に居たい」と言う感情を無き物にしたのです。
私は、「仕事を休んでは成ら無い」と言う、私以外の誰かの考えに取り憑(つ)かれて居(い)ました。
私は私の気持ちよりも私以外の誰が言ったのかも解ら無い人の気持ちを優先させたのです。
私は或(あ)の日仕事をサボタージュする冪(べき)だったのです。」
私は、若布の国に居(い)る間に考えて居(い)た事を迷い人案内所の所長に話した。
「あぁ、その通りだ。よく一人で其処(そこ)迄(まで)思いが至(いた)ったね。
上出来だ。
そうだ。
正解だ。
君が、或(あ)の日、中学校の駐車場で亜空間に入り込んで仕舞った理由は、
「有る感情」を「無いが代」にしたからだ。其処(そこ)に、我が迷い子案内所の優秀な魔法使い妖精「フランジェリム」がお迎えに上がったと言う訳だ。
よく、頑張ったね。知りもし無い異世界で。」
所長は優しい口調で最後の言葉を閉(し)めた。
「いいえ、所長、私は、若布の国に居る間中、不安だなんて思いませんでした。
思えませんでした。
だって、有無を言わさ無い安心感がずっと私を包んで居たから。」
「うん。其(そ)れなら良かった。君が「若布の国」に新たに付け加えた、「若布の国」の定義だよ。」
私は、和(にこ)やかな表情で、こう言った。
「さようなら」
所長は、こう言った。
「さようなら」
畑広美の物語は一旦終わり。
番外編
章名:ひろみエナジー
10年程後…
そのような状況の中で私が出会った人物が「貝津浮世(28)」であった。彼女は、私の言葉に重さを加えてくれた。
私の言葉に具を入れてくれた。方法論に過ぎない私の言葉、現代の言葉に確固たる内容を入れてくれた。
「私の魔法使いに成って下さい!します」
私が貝塚種苗店から帰ろうとしていて、歩道を歩いていた。
すると貝塚種苗店オリジナルのエプロンを取り去った私服姿で、貝塚浮世は、私の方に駆け寄って来て、私に声をかけてきたのだった
私は、とても真面目に生きて来た。真面目と言うよりも、正しく生きて来た(きた)。
正しさなんて物、現代においてよく分からない概念だけれども、私は私が思う「正しさ」を実行してきた。
してきたつもりではない。してきたのだ。着実に、確実に正確に。
誤解されやすいのだが、正しく生きているからと言って、「変な事」「おかしな事」に出くわさない訳ではない。
大真面目に正しく生きてきても「おかしな現象」には出くわす。
普段から現象に対して、真正面から向き合うから「変な現象」に対しても、いつも通りに真正面から向き合うのだ。
私(畑広美)は、「私(貝塚浮世)の魔法使いに成って下さい!」と言う聞き慣れない、変な珍しいの言葉に対して、即答した。「わかりました。なりましょう」まさかの2つ返事で。更に今後の計画まで指定した。「では明日、再びお店に参りますね。」私はそう貝塚浮世に言った。ニコっと微笑んで、私はその日は自宅に帰った。
実は、私は、彼女、貝塚浮世に対して、その世にも奇妙な会話の以前に、訝(いぶか)しく思った事があったのだ。
私は何の種を買おうか品物を見物(けんぶつ)しながら迷っていた。私は迷うことを楽しんでいた。横文字に言い直す(書き直す)のどあれば「ショッピングを楽しんでいた。」
その際、店員である、貝塚浮世の腕が、私の視界に入った。
その腕の肌が一瞬…否、二、三瞬間「緑色」に見えたのだ。
私がこれまでの人生で以前に経験した事の中に、その緑色の肌の腕は存在している。
しかし、其の記憶の断片が私の記憶の中に、単独で存在している。
一体どの様な出来事の後に、其の緑色の腕を見たのか。
解ら無い。一体全体どの様な経路を進めば、其の単独で存在している「記憶」に補足情報を伴う状態でaccess出来るのだろうか。私の記憶の其の緑色の肌はいつ見たのか。私は思い出す事を試みた。が、補足情報を思い出す事は不可能であった。此(こ)の記憶をより正確に思い出せれば、膨大な記憶を同時に得られる気がした。
そう。私は、ワカメの国での出来事の一部始終の記憶を削除されて居(い)た。フランジェリム・ミラコ・ペディグリン、ディクドトリ・ミラン・ペディグリン、和昆戦争…忘れさせられて居たのだった。一度成(な)らず二度迄(まで)も。
私は、とても真面目に生きて来た。
真面目と言うよりも、正しく生きて来た(きた)。
正しさなんて物、現代においてよく分からない概念だけれども、私は私が思う「正しさ」を実行してきた。
してきたつもりではない。
してきたのだ。
着実に、確実に正確に。
誤解されやすいのだが、正しく生きているからと言って、「変な事」「おかしな事」に出くわさない訳ではない。
大真面目に正しく生きてきても「おかしな現象」には出くわす。
普段から現象に対して、真正面から向き合うから「変な現象」に対しても、いつも通りに真正面から向き合うのだ。
私(畑広美)は、「私(貝塚浮世)の魔法使いに成って下さい!」と言う聞き慣れない、変な珍しいの言葉に対して、即答した。
「わかりました。なりましょう」まさかの2つ返事で。更に今後の計画まで指定した。
「では明日、再びお店に参りますね。」私はそう貝塚浮世に言った。
ニコっと微笑んで、私はその日は自宅に帰った。
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- 2012/09/10(月) 23:43:56|
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